怒りの力で導く明王って何?五大明王や愛染明王、孔雀明王の特徴。
明王
明王は密教の教えのなかで考え出された仏さまです。インドの古来からの宗教の影響を強く受け、仏像には見られない特殊な姿をしています。
弘法大師によって平安時代のはじめに日本に伝えられました。
密教の中で一番偉いのは大日如来で、明王はその命令に従い任務を遂行しています。
特に人間の欲の深さに厳しい目を光らせているため、恐ろしい怒りの表情をしています。この表情で凶悪な悪や煩悩を正面から打ち下す強い意志を表しているのです。
背景の火炎はどんな煩悩も焼き尽くす智慧の炎です。また不動明王が座っている盤石は、人々の障害を鎮める意味を持っています。
このような恐ろしい顔にしては、体はどちらかというと華奢(きゃしゃ)なんですよ。
五大明王とは
五大明王とは不動明王をはじめとする五体の明王のことです。
不動明王を中心に降三世明王、軍荼利明王、金剛夜叉明王、大威徳明王。
京都の東寺には、日本で一番最初に造られたと言われる五大明王があり、国宝にも指定されています。
五大明王はグループで祀られていますが、不動明王に関しては単独でも祀られます。不動明王は大日如来の一番の子分なので、他の明王の力も兼ねていることを表しているのです。
不動明王
明王のなかで一番一般的です。
右手に剣、左手には羂索と呼ばれる縄を持っています。
剣で煩悩を断ち切った後、羂索で煩悩を縛りあげ、有無を言わさずに人を正しい道に導いてくれます。
背中には燃え盛る炎を背負っていることが多く、これは凄まじい炎で煩悩を焼き尽くすことを表現しています。
力強い姿が無敵の荒武者を想像させることから、武士たちの間では戦いの神様として信仰されました。
金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)
顔が3つ、手が6本、目が5つあります。
額に縦に目があり、普通の両目に並行して2つの目があります。
5つの目は五感の欲望を制御するという説もありますが、はっきりしたことは分かっていません。
降三世明王(ごうざんぜみょうおう)
三世とは私たちが生きている欲望が渦巻く迷いの世界をさしています。
この三世の世界を支配して、みんなが幸せになる世界に変えるのがこの降三世明王の役割です。
4つの顔と8本の手を持ち、額に縦に目を刻んでいます。降三世印という小指を絡めた特殊な印を組んでいるのが特徴です。
そして足元にシヴァ神という、ヒンドゥー教の最高神とその妻を踏みつけています。この二人は強い煩悩を持っているので懲らしめているのだと言われています。
大威徳明王(だいいとくみょうおう)
6本足で水牛にまたがっているのが特徴的です。顔が6つ、手が6本、足も6本あります。
複数の顔や手を持つ仏像はたくさんありますが、複数の足があるのはこの大威徳明王だけです。このことから六足尊(ろくそくそん)とも呼ばれます。
水牛は田んぼや沼の中でも楽々と進むことができます。仏教では泥は煩悩に例えられ、大威徳明王がどんなに強い煩悩もものとせずに進むことができるのを象徴としています。
軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)
顔が1つ、手が8本、額には縦に目が刻まれており、手足にはたくさんの毒蛇が巻きついています。
毒蛇は欲望を象徴しており、軍荼利明王はいくら強い煩悩がからみついていたとしても、欲望に負けないということが表現されています。
また2本の手を胸の前で交差させた特殊な印を組んでおり、煩悩を撃退することを表しています。
愛染明王(あいぜんみょうおう)
顔は1つ、手は6本で全身が真っ赤に染まっています。手には弓矢などの武器を持ち、左手の1本はこぶしを握っています。
「愛」は煩悩の中で最も断ち切るのが難しい、男女の性的な欲求の事です。
それほど強い煩悩のエネルギーを悟りの力に変えてしまおうという、逆転の発想から生まれた最も密教的な明王なのです。